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三田市立幼稚園再編計画(案)に抗って――対話関係をあきらめない

メールマガジン『ルビュ「言語文化教育」』769号(発行:2020年10月16日,言語文化教育研究所八ヶ岳アカデメイア)掲載記事より許諾を得て転載

牲川 慶

今,私の住む兵庫県三田市では『三田市立幼稚園再編計画(案)』が提起され,
対象地域住民が強く反発している。
三田市はニュータウン部と農村部からなり,当計画案は,うち農村部の市立幼
稚園7園を全廃し,子ども園2園を新設するというもの。

「適正規模の確保」と「保育ニーズへの対応」を理由とし,「喫緊の課題」と
して取り組まれる市政だというが,計画案策定に関し条例が定める手続きがと
られていない上に,「適正規模」の根拠となる客観的データがない,対象地域
の意向・ニーズをいっさい調査していない,ことを市が認めており,このあま
りの無理筋を通そうとする市の姿勢には,当該地域住民として恐怖さえ覚える。

事実もなく,要望もなく,では一体何によって「喫緊の課題」とされているの
か。全国の統廃合例を見る限りでは,総務省が推進する「公共施設等総合管理
計画」で求められるPDCAサイクルの時限目標だろうと思われる。この計画に従
えばその自治体は,老朽化施設の除却を最終的には国の費用で行うことができ
るという,人口減時代にはまことにありがたいお話らしい。

しかし,三田市の市財政は大幅黒字で自主財源率もイイ感じで,特段,この制
度にペコペコすべき切羽詰まった事情はないように見える。だとすれば,客観
的事実でもなく,市民のニーズでもなく,ひっぱくした財政事情でもなく,た
だ国からのプレッシャーだけを理由として,市条例さえないがしろにして市政
を運営しようとしているということで,まさに地方自治の根幹をゆるがす深刻
な事態だ。

一方,地域住民の対話を求める熱量はすさまじい。本案が発表されると即,地
域の保護者らが園庭に勝手に集って問題点を討議。それら意見はPTAによっ
て集約され市長宛に団体要望。手続き上の問題はオンブズパーソンに申し立て。
全ての関連情報を幼小PTA有志による協議会がポータルサイトで公開。市の
開催する「説明会」では満員の参加者から次々と意見。
(さすがに市もこのままでは通らないと判断したのか,市長は謝罪し,条例に
沿った姿勢に方向を微調整した上で,再検討の上,説明会の再開催を約束した
がなお予断を許さない。)

保護者ら地域住民が,ひとりひとり勇気をふるって魂をこめて,市に対して発
言・提言しているのに対し,市は「持ち帰って検討する」「取り入れるべきは
取り入れる」と繰り返すばかりで,だれがどこにどう持ち帰って,だれがどこ
でどういった根拠・ルールに従って検討し判断したのかがまったくわからない。
市民意見を聞く手続きの一であるパブリックコメントにしろ,かつても某「計
画(案)」から「計画」に至るまで1文字たりとも変更がないなど,とうてい
意見を聞く気があるようには見えない状態にある。

聞く気がない相手といかに対話するか。その道はただひとつ「あきらめない」
ことだ。幸い,対話を実現するための制度・条例・法律はこれまでに相当整備
されている。ありとあらゆる手段を用いて,市と市民が再び信頼できる関係と
なって,豊かな対話が実現されるよう,しつこく働きかけていきたい。

全国から新聞・テレビの取材も来ています。ひきつづき動向をご注目ください。

・三田市立幼稚園再編計画ポータルサイト https://takahira.org/saihen/
・三田市立高平幼稚園PTA https://takahirayochienpta.tumblr.com/

ご意見お待ちしています(saihen@takahira.org:担当・牲川)

メールマガジン『ルビュ「言語文化教育」』769号(発行:2020年10月16日,言語文化教育研究所八ヶ岳アカデメイア)掲載記事より許諾を得て転載